NGSアダプターに必要なオリゴヌクレオチドの精製

NGSのアダプターはkit品として購入する場合が多いかと思いますが、実験をカスタムしたい場合や、論文に従い実施する場合は、カスタムオリゴヌクレオチド(以下オリゴ)として購入する必要があります。

その際に決める必要のある条件の一つがオリゴの精製で、論文に記載されていれば良いのですが、何も情報がない場合はどれを選択すれば良いか分からないこともあります。

本記事ではオリゴの精製とは何かと、アダプターに必要なオリゴの精製を解説します。

オリゴの精製とは

オリゴは目的の配列を1塩基ずつ伸長していくことにより、化学的に合成されます。この合成プロセスでは目的の完全長オリゴだけではなく、合成に失敗した短いオリゴや、合成プロセスの残留物が発生してしまいます。そのため合成したオリゴは精製し、不純物と完全長未満の配列を取り除く必要があります。より良い精製を行えば、より品質や純度の高いオリゴが手に入りますが、その分精製の費用も高価になり収量も少なります。

実験によっては精製を行わなくとも十分の結果を取得できる場合もあるので、どの精製を選択するかは、用途、オリゴ長、必要な純度や納品量、修飾等によって決める必要があります。

脱塩とは

合成時に発生する保護基等の低分子不純物を除去します。完全長ではないオリゴは除去されません。多くのオリゴメーカーが追加費用なしで行っている、最も精製グレードの低い方法です。

20~30塩基のPCRプライマーでは、脱塩で十分な場合も多いです。オリゴは配列長が長くなるほど、目的の完全長オリゴが得られる割合が少なくなりますが*、20-30塩基では精製を加えたオリゴと大きな差がないためです。

オリゴを1塩基伸長させる時の効率。業界平均で98.5%となる。20塩基程度であれば70%以上が目的の完全長オリゴとなり、配列が長くなるほどその割合は減っていく。

カートリッジ精製とは

5’末端にトリチル基をもつオリゴをキャプチャーすることで精製します。通常、オリゴの1塩基を付加していくサイクルの最後にトリチル保護基は除去されますが、最終サイクルのみトリチル保護基を残しキャプチャーし、途中で伸長が止まった不完全なオリゴを洗浄します。これにより目的の完全長オリゴのみが精製されます。ただし長鎖のオリゴでは分解能は下がるようです。

オリゴメーカーでは少し追加費用が発生することが多いです。後述するHPLC精製やPAGE精製に加えると精製度は低いですが、オリゴの精製が重要でない短いプライマーの場合でも、お守り的にカートリッジ精製を追加している方もいるようです。

HPLC精製とは

高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography: HPLC)による精製です。多くは逆相HPLCを用いて目的の完全長オリゴを分取します。配列や修飾、オリゴメーカ一により変動はありますが、一般的に85%以上など高い純度のオリゴが取得できますが、収量は少なります。精製費用は前述の脱塩やカートリッジ精製に比べると、高めに設定されています。

PAGE精製とは

ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PolyAcrylamide Gel Electrophoresis: PAGE)による精製です。目的のサイズのバンドを切出し、目的の完全長オリゴを抽出します。生物系の学校出身の方ですと、学生実験で実際にやられた方も多いかと思います。一般的に90%以上など高い純度のオリゴが取得できますが、収量は少なります。精製費用は前述の脱塩やカートリッジ精製に比べると高めで、HPLC精製と同程度のメーカーが多いようです。

NGS実験に必要なオリゴの品質は

一般的にNGS実験には高い純度や品質のオリゴが求めらます。一例として、インサートにライゲーションするアダプターオリゴが不完全で5’末端まで正しく伸長されていないと、シーケンサーで解析されず多くのインサートをロスすることになります。

またNGS実験で最近懸念されることが多くなった、クロスコンタミネーション(以下クロスコンタミ)もあります。年々シーケンサーのスペックが上がり、インデックスを用いることで一度に多くのサンプルを解析できるようになりましたが、インデックスのオリゴがクロスコンタミしていると、解析結果を誤ったサンプルに割り当ててしまいます。

とりあえずPAGE精製を選べば間違いない?

PAGE精製は純度の高いオリゴが精製できると上述しましたが、NGS実験ではクロスコンタミに注意する必要があります。メーカーにオリゴの合成を依頼する場合や手元で精製する場合でも、例えば10種類のインデックスオリゴを精製する場合、端から10種類を並べて電気泳動することになります。すると泳動中に非常に微量ではありますが、各オリゴが隣のレーンに移る恐れがあります。PAGE精製だと純度は高いのですが、僅かに含まれる不純物の中身は、隣り合うオリゴになる可能性が他の精製方法より高いのです。

クロスコンタミする量は非常に微量でも、例えば最近はNGSのクリニカル用途での使用も広がっており、クロスコンタミによる検体の取り違い、更には患者様の治療法を間違う恐れもあります。

インデックス配列を含まない、アダプターの共有配列部分を合成する場合は良いかもしれませんが、インデックス配列を含むオリゴの場合は注意が必要です。

結局どの精製を選べばよい?

まず論文に従って実施される場合は、論文に記載されている精製で問題ありません。実績のある精製で行うのが確実です。

次に実験を確実に実施したい場合は、HPLC精製を追加するのが確実です。精製コストは高いですが、HPLC精製以上の品質で合成できるオリゴは通常ありませんので、実験結果に問題があった場合に精製の影響を除外できます。

続いてIndex Primerなど、PCRによりアダプター配列を付加するプライマーを使用する場合は、HPLC精製を試した後に精製度の低いオリゴを試しても良いかもしれません。必要な実験結果次第ではありませすが、PCR Primer用のオリゴはHPLCほどの精製度がなくても十分な結果を取得できる場合があります。特に多サンプルをどんどん処理したい実験の場合は、必要なIndex Primerの数も多く精製コストの影響も大きいので、低いグレードのオリゴを試しても良いかと思います。

最後に各オリゴメーカーに問い合わせを行うことも大事です。最近では各メーカーでNGS用として販売しているオリゴもありますが、その品質はメーカーによって異なるようです。NGS用として最高品質のオリゴを提供しているメーカーもあれば、Index Primer用の長鎖オリゴを、価格と品質のバランスが良いNGS用として販売しているメーカーもあります。どのような実験を行う予定か詳細お伝えすれば、各社で販売している製品から、必要なオリゴや精製をご提案して頂けるかと思います。

(補足情報)分子バーコード(UMI)を含むオリゴは精製しても良いの?

分子バーコードは多くの場合、混合塩基(ATGC)の何れかが伸長するように合成されます。各塩基の分子量はATGCで少し異なるので、分子量の小さい塩基や大きい塩基が多いUMI配列の場合、HPLC精製時にピーク外として除去されることがあります。

それではUMIを含むオリゴは精製が出来ないかというと、そうではありません。特に上述したオリゴの品質が重要なアダプターでは、UMIの多様さよりもオリゴの品質の方が実験結果に与える影響が大きい場合は多いです。特にUMIを使用する実験では、希少サンプルを使用する場合や低頻度変異の正確な検出など、実験結果に精度が求められるケースが多いのではと思います。

そもそもオリゴメーカーにカスタムオリゴ合成を依頼して、ATGCが完全に25%ずつの割合で合成することは難しいです。オリゴの精製を上げながらUMIの多様性を増やしたい場合は、UMIの配列長を増やすことがひとつかもしれません。