最近NGS製品では、ストランド情報に関して言及する製品が増えてきました。本記事ではストランド情報に関して、当分野で混乱している方向けに解説します。
最初にDNAは相補的な2本鎖となっておりますが、各鎖はセンス鎖(Sense Strand)とアンチセンス鎖(Antisense Strand)と呼ばれています。
センスは英語で「意味」を表し、遺伝情報等は意味のあるセンス鎖の塩基配列となっています。
またDNAは相補的な塩基配列の2本鎖のため、アンチセンス鎖はセンス鎖と対になる塩基となっており、特に意味は持ちません。
またDNAからタンパク質を合成する遺伝子発現の際、DNA配列を基にRNA合成が行われますが、RNAの配列はDNAのアンチセンス鎖を基に相補な配列を合成します。これにより合成されたRNAの配列は、DNAのセンス鎖と同じ配列となります。(実際はDNAのTが、RNAだとUになる違いはあります。)
ここで混乱しないように注意しないといけないのが、センス鎖とアンチセンス鎖はDNAの特定の領域のみで判断されるということです。
上記の図ではセンス鎖/アンチセンス鎖の記載がありますが、すべてのRNA合成(遺伝子発現)が、図のアンチセンス鎖と同じ鎖から合成されるのではありません。別の遺伝子では、上記図でセンス鎖と記載されている鎖側が、アンチセンス鎖となりRNA合成をすることがあります。
なおRNAが合成される鎖は遺伝子によって異なりますが、合成される向きは各鎖で決まっています。例えば下記の図は、UCSCというサイトでBRCA1とNBR1遺伝子の領域を見たもので、矢印の向きは遺伝子の向きを表しています。BRCA1とNBR1では遺伝子の向きが異なるため、これらの遺伝子は別の鎖からRNA合成するであろうことが分かります。
つまり遺伝子発現は各鎖で違いがあるため、ストランド情報を保持してRNA-Seqを行うと下記のメリットがあります。
1. 解析の手間とコストを抑えることができる
NGSで取得した結果がどちらのストランド由来がすぐに分かるため、解析の手間が減り、効率よく実験を進めることが出来ます。
2. アンチセンスRNAの発現を検出することができる
最初にDNAのアンチセンス鎖からRNAが合成されることを説明しましたが、このRNAはセンスRNAと呼ばれ、更にRNAにもアンチセンスRNAが存在します。アンチセンスRNAはセンスRNAと2本鎖を形成することで、センスRNAが行うべきタンパク質合成を調節するなどの働きを持っています。
ストランド情報を参照すると、アンチセンスRNAに関与する偽遺伝子の向きを特定することが出来ます。
3. オーバーラップした転写産物の定量が正確にできる
遺伝子発現は、DNA2本鎖の同じ領域から観察されることがあります。その際にストランド情報を保持していると、各鎖の発現を正確に検出することが出来ます。
ストランド情報を保持した解析を行うことで、従来よりも詳細な解析が出来るようになり、研究が進むことが期待されています。
次回の記事では、実際にストランド情報を保持したライブラリー調製を行う手順について解説する予定です。